遊びまくる!

アラサー無職のカオスな日記

犬男

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犬を飼いたいと思っている人は多い。

でも飼えない人もいる。東京のマンションやアパートではペット禁止の賃貸が多い。私もペットを飼いたいと思い続けて、考えているだけで今に至る。

 

ペットを飼いたいけど現実には飼えないのならば、想像のなかで飼うしかないと思い立った。以下はそんな妄想である。

違和感

朝、目を覚ますと違和感を覚えた。

部屋は寝る前と同じで変わったところは見当たらない。テレビニュースはトランプ大統領の話題ばかりですぐに消した。顔を洗い、歯を磨き、スーツに着替えたところで携帯がないことに気がついた。テーブルの上にも床にも冷蔵庫の上にもどこにもない。家中を探し回ったが見当たらない。

 

携帯を探している最中、男はある違和感の原因が何であるかわかった。それは視力が極端に悪くなっていることだった。物という物が霞んで見えた。何度も目をこすって見ても、遠くの物にピントが合わない。これ以上は仕事に遅刻してしまう。しょうがなく男は携帯をあきらめ、黒いビジネスバックを持って家を出た。

 

会社に行く道中も男の違和感は拭えない。視力が低下したことではない。他の違和感である。男の勤める会社は、幸い自宅から歩いて15分くらいで行ける距離にあり、駅の方面に向かう人波とは真逆の方向にひとり歩いた。目に風が入り、痛くて閉じたり開いたりした。家を出るときに顔を洗ったはずなのに、もう目ヤニが溜まっている。

犬男

男の会社はビルの6階ある。エレベーターを出ると、フロアに一室しかないその部屋の扉は開かれたままの状態だった。入ろうとして立ち止まった。向かい合わせにパソコンが並ぶ事務所のわたしの席に、すでにわたしが座っていたのだ。男は隣席のA子と親しげにスノボの話で盛り上がっている。いきなり私に似た男が振り向いて、扉の横に立っているわたしと視線が合った。

 

私に似た男はわたしに近づいてきて「話があるならこっちで聞こう」とだけ言って、7階の屋上にわたしを誘った。わたしは言われるがまま、似た男のあとを追った。屋上につくなり似た男は困った顔をして「だめじゃないか」と言ってわたしの頭を撫でてきた。わたしはバカにしているのかと感じてとっさに男の手を振り払う。掴みかかるわたしの腕を男は余裕の表情でねじ伏せる。

 

わたしに似た男は、わたしを軽々と持ち上げると、そのままエレベーターに乗って1階に降りた。「家で大人しくしているんだ」と、きつい怒鳴り声を上げてわたしを外に放り出した。

 

「いいかい、ここは私の領域なんだ、だからもう2度とここには来てはいけない。いい、わかったかい」

「仕事が終わったらすぐに帰るから家で待っているんだ」

怒鳴ったかと思えば、優しい口調になる。わたしは家に帰り、わたしに似た男の帰りを待った。帰ってきたら仕返しをしてやろうと家の中をうろうろした。

正体

部屋の中を動き回るうちに男は、朝感じた違和感の正体を知った。トイレの横に立てかけてある姿見が男を映した。そして男がなぜ視力が悪いのに会社まで安全にたどり着けたのか、その意味を理解した。ただ呆然と自分の立場を理解した。

 

 

ああ、なんということでしょう。わたしという存在はいつも見ている同居男に飼育される、哀れな犬なのです。噛みついたり、吠えたり、ひっかいたり、走り回ったりするしかやることがない食うだけで腹を出して、く~んと甘え声を出すしかない犬なのです。

 

こうして家にいても外から飼い主が帰ってくるのが匂いでわかるのです。廊下を歩いてくるときにコツツと鳴らす靴の音で、誰が来るかわかるのです。ほら、もうすぐ扉を開けて飼い主が、わたしに似た男が帰ってくるのがわかります。

 

犬のわたしはご主人の帰りをきっと尻尾を振って喜ぶでしょう。だけど今日は帰ってくるなり噛みついてやるのです。甘噛みですが、少しだけいつもより強めにガブッと噛みついてやるのです。ああ、ご主人の痛がる声が早く聞きたい。